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2018/02/03

短歌人同人1 その12 2018/1 #短歌

 曇り。
 海を隔てて熱海は辛うじて見える。
 その先の湯河原は見えない。
 丹沢山系は雲の中。
 雨が近い。
 雪も降るかもしれない。
 大島航路の連絡船が、真っ白な航跡を曳きながら海を横切ってゆく。


 八人の作者の歌、八首を。
 
 ペストより眺めてあれば夕闇にブダは光を纏ひそめたり
           渡  英子

 ドナウ川を挟んで、西岸のブダ、東岸のペスト。作者は東から西のブダを見ている。大都市である。夕闇が迫り、街の光が浮き出てくる時刻。

 ひとりびとりにたましいがあるげんじつに蓋をしないと乗れない電車
           斉藤 斎藤

 繊細な自意識の歌というより、絵が浮かんで来る。ひとも、たましいも、蓋も、電車も、リアルなものというより、アニメの絵のような感じがする。平仮名の使い方がそう感じさせる。
 
 酔ひし腕からみあはせて行きし街病むくやしさを知らざりしころ
           三井 ゆき

 夫、高瀬一誌と腕をからみ合わせて元気に歩いた街。その後の闘病と無縁の頃。最も大切なひとを亡くした人には、必ず同じ思い出がある。切ない。

 やま道の一つところに獣の糞あたらしきさまに残りゐるかな
           神代 勝敏

 鹿とは糞の形状が違う気がする。どんな獣だろうと、読者にも思わせる、山道特有の不思議がある。

 タクシーをおりてひとつの伝言を手のなかにきく阿弥陀堂前
           紺野 裕子

 阿弥陀堂は日本に幾つもあるだろうけれど、結句が効いている。映画『阿弥陀堂だより』のしみじみとした良さを引っ張ってくる。作者は、携帯電話で伝言を聞いている。

 睡蓮のなかに眠れる蟻のことをなぐさめに水曜日はたらく
           内山 晶太

 週の半ば、ひとは慰め、ないし依代が欲しい。美しい睡蓮の中に居るとはいえ、水に囲まれ閉じ込められている蟻。眠っている。その蟻を思い、自らの慰藉とする作者。

 勉強にいそしむ娘の向かひにて詠へば思ひのほかはかどりぬ
           宇田川寛之

 小中学生が、与えられた勉強に励む。与えられたことに文句を言わず疑念を持たず、一心に勉強する姿は感動的である。大人も、心の中で粛然として、ものに集中する。

 日章旗林立したる秋葉原永久に救済あらぬヤマトよ
           藤原龍一郎

 日章旗は観念の作物である。呪力もある。権力の象徴を臭わせる使い方をされるとき、禍々しい戦争の記憶と結びつく。戦争強奪の果てに建てられたヤマト王権が、林立した旗の先に幻のように見える。

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